重い病を抱えた患者や、その家族の身体や心などに生じるつらさをやわらげ、なるべく生活の質を維持するためのサポートを意味する「緩和ケア」。1990年には全国で5施設しかなかった緩和ケア病棟も、2017年には394施設にまで増加(「日本ホスピス緩和ケア協会」調べ)するなど、日本でも普及が進んでいます。一方で奈良県立医科大学の四宮敏章先生がYouTubeチャンネルを開設、緩和ケアについての解説動画を配信したところ、多くの反響が寄せられています。その四宮先生いわく、末期がんから生還した人たちにはある特徴があるとのことで――。
すべての人に備わる「レジリエンス」
病気、特にがんなど死に至る病に直面すると、多くの人は衝撃が大きすぎて平静ではいられなくなります。そんなはずがないと否定したり、なぜ自分なんだと怒りの感情を露わにしたり、心を閉ざしてしまうなど、がんという事実から目を背けようとします。
しかし、耐えられないほどの苦悩を味わいながらも、やがて現実を受け入れ、残された時間のなかで精一杯生きようと、病気と向き合い、立ち上がってゆく姿を私は何度も見てきました。
心理学の世界に「心的外傷後成長」(Post Traumatic Growth)という概念があります。これは「心に大きな傷が残るような過酷な体験をした後でも、それを乗り越えて精神的に成長していくこと」と定義されています。
また、同じような意味で使われる心理用語に「レジリエンス」という言葉もあります。「快復力」とか「弾性(しなやかさ)」を表します。
がんを患い、いのちの危機に直面した患者さんたちがまさにそうです。絶望の淵を経験し、そこでの葛藤が人を成長させるのでしょう。すべての患者さんにいえることですが、みなさん病気を通して何か新しい価値観を手にしたような印象があります。