「ずっと大学の非常勤講師のまま。年収は200万円程度で、典型的な高学歴ワーキングプア」と語る松田さんですがーー(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
源泉徴収義務者(民間の事業所に限る)に勤務している給与所得者(所得税の納税の有無を問わない)を対象とした「民間給与実態統計調査」が国税庁より令和4年9月に発表。それによると1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与は443万円(対前年比 2.4%増)となっていました。しかしジャーナリストの小林美希さんは「現実には、年収443万円では普通の暮らしをするのが難しい」と言います。たとえば小林さんが取材をした、埼玉県の松田さん・56歳の場合――。

研究者を目指した時からワーキングプアの道を歩むことに

なんでマスコミは中高年の貧困に目を向けてくれないんですかね。もう何もかも疲れました……。気づいたらもう50代後半です。還暦まであと数年かと思うと、本当にこの状況から抜け出せるのか、絶望的になります。

研究者を目指して大学院でも学んだのに、ずっと大学の非常勤講師のまま。年収は200万円程度で、典型的な「高学歴ワーキングプア」です。だから、大学院時代に借りた奨学金の返済がまだ250万円も残っています。

結婚して子どもができてという当たり前の生活、ささやかな幸せを望んでいたけれど、そんなことを考えるのも空しいんです。誰か、「年収なんて関係ない」と言ってくれる女性はいないものでしょうか……。現状、誰も相手にはしてくれないでしょうけど。

埼玉県にある実家で暮らし、10年前に父は癌で亡くなり、母は5年前に脳出血を起こして認知症になってしまいました。自分が母の介護をしています。

振り返ると、父を亡くしてから、私の「失われた10年」が始まったのでしょう。でも、もっと遡れば、研究者を目指した時からワーキングプアの道を歩むことになったのだと思います。