初日に向かう間、不安になって、でもどんな作品でもその人のことは好きになれるとか、その人ならきっとその中で最善を尽くしてくれる、奇跡だって起こせるはず、とか考えることができず、本当にただただ、静かにどうか良い作品であれ……良い役であれ……と願ってしまう。希望を自分でどんどん小さくしてる気もして、そういうところにちょっと罪悪感があった。実際に作品そのものをそこまで愛せないことってたまにあります。でも、そうなったらなったで自然と好きな演者さんのやろうとしてること、どこに向かおうとしているかを紐解くように見つめて、その部分を大切に受け取ることが私もいつのまにかできている。そうやって公演期間中ちゃんと楽しめるのは、その人たちが素晴らしいからこそなのですが。でも、やっぱそこで愛せるから良し!とは私はならない、勝手だよなぁって、落ち込んでしまいます。良き作品に、良き役に、全ての好きな人たちが恵まれますように!それこそが最高であると私は絶対に譲りたくないのです。その人たちがどう思うのかは私には全然わからないし、迷惑な可能性もあるけれど。でも、やっぱり伸びやかにその人の力が証明される瞬間がたくさん見たいです。それに勝るものはやっぱり、絶対にないのです。観客として最高な人の最高な瞬間が見たい!始まるまでは、それだけを願っている。どんなにみんなが素晴らしくても。どんな作品でもきっと楽しめるとわかっていても。あの子がいるならどんな作品でもいいよとは一生思わないし、言いたくない。彼女たちが素晴らしいからこそ、いつも、かならず素晴らしい作品に全員が巡り会えますようにって、私は勝手に願っているのです。
そうして私はもちろん、どんな舞台も、好きな子たちが出るものはできる限りたくさん見にいく。どんな時間でも本当は楽しいです。彼女たちのおかげです。願いが叶おうと叶うまいと、好きな人たちが舞台に立つ喜びはちゃんとずっとそこにある。
イラスト:
北澤平祐
出典=webオリジナル
最果タヒ
詩人
1986年生まれ。中原中也賞や現代詩花椿賞を受賞。主な詩集に『グッドモーニング』『死んでしまう系のぼくらに』『不死身のつもりの流れ星』。雪組『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル/FROZEN HOLIDAY』千秋楽おめでとうございました!ロゼット(公演グッズ)に生まれて初めてデコをしました。
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