メインキャスト3人のオーラの変化の凄まじさ
さらに、回を追うごとに、フレーズの響きや深み、重みの感じ方が変わってくる。
そして、メインキャストの3人(長澤まさみ、眞栄田郷敦、鈴木亮平)の圧倒的存在感、回を追うごとに見せる表情や纏うオーラの変化の凄まじさはいわずもがな、脇を固める俳優陣の演技もこれまた圧倒的。
中でも、大山さくら役の三浦透子、村井喬一役の岡部たかし、笹岡まゆみ役の池津祥子の演技は、もはや職人技。
エンディングと、YouTubeで公開されたYONCEと三浦透子が共演する『Mirage』のOfficial Music Videoでの三浦の「眼」。失望なのか孤独なのか虚無なのか、掴めないその複雑な感情、闇を目だけで表現する力には圧倒される。
岡部たかしは、報道から深夜バラエティに飛ばされたプロデューサーという役どころだが、登場直後のセクハラ・パワハラ上司という最悪なイメージから、泥を被っても恵那たちが掴んだ真実を世間に伝える側に回り、無器用ながら心根は腐っていない信頼できる上司へと変わっていく。
印象が180度変わる過程も違和感なく受け入れられるのも、それだけ村井という人物像を演じきる岡部たかしの演技に説得力があるからだろう。哀愁や憎めなさ、報道に失望し、この世の現実を嫌というほど刻み込まれても、それでも消えてはいないかすかな正義への希望も、佇まいやまなざしから漂わせるような演技だ。
また、鮮烈に印象に残ったのが首都圏新聞の政治部記者、笹岡まゆみを演じた池津祥子。恵那や拓朗に協力する新聞記者という役どころ。初回の登場シーンがあまりに強烈で、全部持っていった感がすごかった。
リアルを超えるリアリティとはこのこと。凄まじい演技力。会った人を完全に自分のペースに持ち込む嫌味のない強引さ、大事な資料はどこにあったか一瞬で忘れてしまうようなしっちゃかめっちゃかな感じの演技が絶妙だ。そしてそんなただの個性的で愉快な人、というだけでなく、勘が鋭く、ベテラン記者としての見識を持ち、ここぞという時に頼れる、バイタリティとバランス感覚を持ち合わせた人物像も見えてくる。
そのほかにも名バイプレイヤーが次々に登場するが、みながみな、役にぴたりと、かっちりとはまり、憑依している。確かにそこに生き、生活しているようだ。神業ともいえるキャスティングも、このドラマの上質さを生み出している。
プロデューサーの佐野氏と脚本の渡辺氏のインタビューは各媒体ですでにかなりの数が公開されている。どのインタビューもはっとさせられたり、鋭角でえぐられたり、しびれるようなものばかり。制作過程のインタビューでこんなにも重厚で唸るような内容が次々出てくる作品も珍しい。
構想から実現に至るまでにかかった「6年間」に起きたことを断片的に聞いただけでも圧倒される。
渡辺氏が脚本を書き上げ、佐野氏が企画を持ち込んでも何度も却下されたのだという。しかもその理由に、「リスクが高い」というものもあったという。
正直、冤罪事件および、国家権力に忖度するマスコミを描くことが、そんなにリスクが高いことだと認識されていること自体が恐ろしいと思った。
有名人のゴシップはこれでもかと突っ込んだことを書くのに、権力側への追求には及び腰。そんなメディアの姿勢を象徴するような話だ。