報道のキャスターだった浅川恵那(長澤まさみ)は、局内恋愛のスキャンダルによって深夜のバラエティ『フライデーボンボン』へ異動させられ「エナーズ☆アイ」という1コーナーを担当していた(写真提供◎関西テレビ 以下すべて)
貧困家庭に生まれ、いじめや不登校を経験しながらも奨学金で高校、大学に進学、上京して書くという仕事についたヒオカさん。現在もアルバイトを続けながら、「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしている。ヒオカさんの父は定職に就くことも、人と関係を築くこともできなかったそうで、苦しんでいる姿を見るたび、胸が痛かったという。第27回は「ぶっささるドラマ『エルピス』について」です。

今季始まったぶっささるドラマ

正直、とってつけたようなお決まり的に恋愛要素がぶち込まれた最近のドラマに辟易としていた。別に恋愛ドラマが嫌いなのではない。恋愛を入れる必然性がないところで、これ入れときゃ視聴者喜ぶっしょ的な安直さと短絡さがすけて見えるような恋愛要素の入れ方や演出に嫌気がさしたのだ。

もっとえぐられるような、血が沸き立つようなドラマを見たいんじゃあああと飢えまくっていた私に、ぶっささるドラマが今季始まった。冤罪事件をテーマにした『エルピス-希望、あるいは災い-』(カンテレ・フジテレビ系)だ。

恵那の交際相手だった報道の記者、斎藤正一(鈴木亮平)。政治家の信頼が厚く、副総理の大臣大門雄二(山路和弘)に食い込んでいた

冤罪、しかもそれによって死刑が確定している、という国家権力による最大の人権侵害ともいえる事案を扱っている。

社会問題を扱うドラマは決して少なくはない。しかし、数はあっても問題に関心がない人を引き込むことは容易ではない。どうやったら、関心のない層に届けられるのか、これは作り手、書き手ならば必ず通る悩みではないか。

そんな中、『エルピス』は視聴者を鮮やかに引き込み、巻き込み、現代社会が抱える闇、歪な構造、腐敗した組織、正義と保身の間で揺れる複雑な人間模様について否応なしに考えざるを得なくさせる、そんなドラマだ。

そんな果てしない吸引力のある、別格の上質さを生み出しているのは、周知の通り、話題作を手がけるプロデューサーの佐野亜裕美氏、脚本の渡辺あや氏を始めとする制作陣の手腕だろうが、加えて、エンディングと俳優陣の演技もまた、このドラマを語る上で外せない要素だ。

まずはエンディング。トラックメーカーのSTUTS、シンガーソングライターのbutaji、Suchmosのボーカルで知られるYONCEがタッグを組んでいる。

「Mirage Collective」のメイキング動画」はこちら

STUTSとbutajiは、エルピスのプロデューサーである佐野氏が手がけ、大きな話題を呼んだ『大豆田とわ子と三人の元夫』のエンディングでもタッグを組んだ。毎回マイナーチェンジがあり、各話のストーリーや登場人物のセリフにリンクしたラップと俳優陣のコラボが画期的で、音楽系のバラエティ番組でも取り上げられ音楽家たちからも高い評価を受けた。

切ないメロディーに、重みのある言葉とYONCEの圧倒的な歌声、各分野のトップランナーの演奏が重なる。

スマホ越しでも圧倒され、胸を揺さぶられる紛れもない神曲、名曲だ。

ドラマの内容を知っている人なら思わず唸るようなフレーズがちりばめられている。