行くなら「一人で」!少女を突き動かしたものは
主人公は5歳で母を亡くし、10歳で終戦を迎えた。大学卒業後は書店の編集部に就職し、やがてブラジルに渡る。
本書は『魔女の宅急便』の著者・角野栄子氏による「自伝的フィクション」。言い換えるなら、戦後に一変した日本を少女の視点で描く青春小説だ。
1948年、疎開先から東京へと戻った西田イコは大山女学校へ編入した。街には進駐軍のジープが走り、道路標識は「一方通行」に「ワンウェイoneway」という表記が加わっている。少し前まで敵性語だった英語に感化されたイコは、翻訳家を夢見るようになる。
世の中は軍国主義から民主主義、自由主義へ向かっていても、人は簡単に変わらない。現代にも目には見えない同調圧力があるが、戦後の混沌とした時代、世間の目はさらに厳しかっただろう。せっかく自由を手にしたのに、人と違うことで非難されるのを誰もが恐れていた。
「女の子はね、いい人と結婚をして、家庭を持つ、これが一番の幸せ」と物わかりのいい父・セイゾウさんまでもが娘の生き方を決めようとする。しかしイコはそうした風潮に疑問を感じて心のままに前へと進む。将来作家となる著者らしい決意だ。
学校帰り、イコが新宿の紀伊國屋書店に通う場面が印象深い。将来を決めかねているイコは、はるか海を渡って新宿の書店にやってきた本にまだ見ぬ遠い国を重ねる。窮屈な未来は一転、広い世界へと心は向かっていく。
「私は、一人で行きたい」物語の終盤、イコは一人ブラジルへ旅立つ……。
本書はここで終わるが、著者の角野さんはブラジルに数年滞在した後、帰国しブラジルでの体験を物語にしたためて作家デビューを果たしている。「一人」で生きることは勇気がいる。でもその勇気は未来へ続く道となり、糧にもなる。