あんな思いを二度としたくないと思うからこそ

可哀想だが、とてもとても大切なことをここで身をもって学んだということに、むしろありがたいと感じていた。

道具は大事なもの。誰に任せるでもなく、自分で磨いて、きっちり揃えて野球に向かうことは、野球をやる前の何より大切な心構えなのだと、翔大は痛い痛い思いをして学ばせてもらったのだ。

こんな当たり前のことをここまで教えてこなかったのは、親である私の落ち度ではなかったか。

たくさんの野球道具が必要であり、「重いから」と最初からどこへでも車に積んで運んでやって、ここまで楽に野球だけをやれる環境においていたが、いつかはこのことを学ぶときが必ずくるのだ。「子どもだから可哀想」といつまでも親が手を添えて助けてあげることだけが、親心ではなかったのかもしれない。

だって、野球をやるのは、本人だから。

父親でも、母親でもないのだから。

あれから1年半以上経つけれど、お陰様であれ以来翔大が毎日の道具チェックを怠ることはない。

あんな思いを二度としたくないと思うからこそ、毎日どんなことがあっても野球に忘れ物があってはならないと肝に銘じている。

新幹線の車窓から見える富士山

正直、もうこれだけ覚えたら神奈川に帰ってきていいと思えるほど、私は息子が何より大切なことを身につけられたことに感謝している。

いや、やっぱりまだ帰ってきてはダメです。

まだ高校野球の入り口に立ったばかりなのだから…。

発熱騒動からの、忘れ物騒動。

ここまで、まだ入学して1週間ほどの出来事だ。