「やっぱり私は銭湯が大好きだなあ」

今日は、取材直前まで他の銭湯の図解を描き進めていたので、誤ってフリクションペンを持ってきたらしい。そんなフリクションのインクは、ペンのお尻についているゴムで擦ることによって摩擦熱で消える。

つまり、私がこれまで必死に書き込んできた取材のメモは、熱で消えてしまったのだ、金春湯の熱々のサウナ室の温度で。

絶望した。熱いサウナを何より愛する私が、熱さでこんな目にあうとは……泣いた。そして悔しい想いに耐えながら、これまで測量で行った作業を一からやり直した。もう二度と、サウナ室ではフリクションは使わない。固く、決意をした。

銭湯図解の取材はこんな思いもよらないアクシデントを引き起こしがちだが、大好きな銭湯のことだからその出来事すら愛おしく思えてしまう。何より、アクシデントにめげず取材を終えた後のお風呂は最高だ。

何度も来ているはずなのに、苦労して取材を行い、店主の方のお話を伺い、そのこだわりを聞いた後のお風呂はいつもと少し違って見えて、新しい視点で楽しむことができる。

「やっぱり私は銭湯が大好きだなあ」取材の帰り道、毎回そんなことを思う。取材で改めて感じた銭湯の面白さや、インタビューで受け取った店主の方の想い、取材後のお風呂での心地よい時間を、銭湯図解に描き込めていく。今日の銭湯はどんな風に描こうかな。想像を膨らませながら帰る、家への道すがらも、楽しいひとときだ。

 

※本稿は、『湯あがりみたいに、ホッとして』(双葉社)の一部を再編集したものです。


『湯あがりみたいに、ホッとして』(塩谷歩波/双葉社)

設計事務所から転職し、「番頭兼イラストレーター」として活躍した銭湯を退職、画家として独立した著者。100℃のサウナと0℃の水風呂を往復するように波瀾万丈な人生ではあるけれど、銭湯やサウナ、それを愛する人々に助けられたり、笑わされたりして、少しずつ自分らしくいられる場所を作っていく。銭湯の番頭業務の裏側や『銭湯図解』制作秘話、フィンランドサウナ旅など、濃厚エピソード満載! 読むとホッとして、ちょっとだけ前に進む気持ちになれる――。『銭湯図解』で話題沸騰の著者による、笑いあり涙ありのエッセイ集。