カメによる温泉発見の由来や伝説

●湯野浜温泉(山形県鶴岡市湯野浜)

天喜年間(1053~1058)、漁師が浜辺に出てみると、何か黒いものが見えた。「こんな所に岩はないはず」とよく見ると、それは傷ついた大きなカメであった。カメのいる付近には水気があり、手を入れてみると温かい。カメを退けて掘ってみたところ温泉が湧いていた。カメはこの温泉に浸かって傷を癒していたのであった。翌日も、その翌日もカメは現れて温泉に浸かり、1週間も過ぎた頃傷がよくなったのか海へ帰っていった。

その夜、漁師は不思議な夢を見た。夢の中で奇妙な老人が現れ、
「私はこの海の沖に昔から住んでいるカメである。この前、大船から降ろされた錨にぶつかって大けがをした。浜辺に温泉があるのを見つけて浸かったらすっかりよくなった。これからは温泉の守護神となり、人々を病苦から救ってやろう」と言うやいなや姿を消し、目が覚めた。

漁師はこの夢のことを村人に話したところ、それでは温泉場を作ろうということになった。カメが浸かっていた所を掘って湯壺を据え付け、試しに村人で病気や腫れ物がある者を入浴させたところ全快した。この話はまたたく間に近郷近在に伝わり、湯治客が訪れるようになった。

また、村人たちは浜辺の岩の上に神社を建て、「湯蔵(ゆのくら)権現」と名付けた。これが現在の「温泉神社」で、今でもカメが海に帰ったと伝えられる4月1日を温泉神社の祭日としている。

湯野浜温泉はその名の通り海辺の温泉郷(写真提供:Photo AC)

※本稿は、『秘湯マニアの温泉療法専門医が教える 心と体に効く温泉』(中央新書ラクレ)の一部を再編集したものです。