冷蔵庫の中身を取材させてほしいという依頼があったら
しかし、書棚というのは正直なもので、演出が加えられようと加えられまいと最終的には持ち主の人格をあらわにしてしまうことを忘れてはならない。
几帳面な人の書棚は、おおむねジャンル別に本が整理されているので探すのに手間取ることはない。しかし、私のようなガサツな人間の書棚は何もかもが雑多に混じり合い、どこにどのような本があるのかは持ち主である私が感覚的に知るのみとなる。整理整頓を試みても、気がついたら再び雑然とした状態に戻っている。
かつて夫が私の書棚を「君の冷蔵庫と同じだよ」と形容したことがあったが、確かに私の冷蔵庫には、名残惜しくて捨てられない古い食材から贈答品の高級食材まで、あらゆるものが詰め込まれている。
先日、新年を迎えるにあたり冷蔵庫掃除に踏み切りかけて途中で諦めたが、自分という人間を振り返る良い機会にはなった。書棚までは許せたけれど、冷蔵庫の中身を取材させてほしいという依頼があったら、問答無用でお断りしようと思う。
『歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)
パンデミック下、日本に長期滞在することになった「旅する漫画家」ヤマザキマリ。思いがけなく移動の自由を奪われた日々の中で思索を重ね、様々な気づきや発見があった。「日本らしさ」とは何か? 倫理の異なる集団同士の争いを回避するためには? そして私たちは、この先行き不透明な世界をどう生きていけば良いのか? 自分の頭で考えるための知恵とユーモアがつまった1冊。たちどまったままではいられない。新たな歩みを始めよう!