(出典:『伝説の校長講話――渋幕・渋渋は何を大切にしているのか』より)

子どものための文学が生まれた

もう一つ、本に関する話をしましょう。人類は長い間、大人と子どもは同じ「生き物」だと思っていました。ところが、実は違うということが分かってきたんですね。それが最も典型的に現れた場所が、産業革命でできた近代の工場です。

当時、子どもは力が弱く体が小さいけれど、大人と変わらないものだと捉えて工場で仕事をさせたら、悲惨な事件が起きました。子どもたちが身体だけでなく精神的なダメージを受けてしまったんですね。それで気がついたのです。

大人と子どもは違う生き物だから、違う扱いをしなければならない。子どもの教育を考えなければいけない。このような考え方が世界中に広がっていきました。

その頃、スウェーデンのエレン・ケイという女性の教育学者が『児童の世紀』という有名な本を書き、子どもの発達過程をきちんと扱わなければならないと主張します。今となっては当たり前のようですが、このことに人々が気づいたのが1900年前後で、わずか120年くらい前ですね。

その頃に何が起きたか? きょうの話につながります。子どものための文学が生まれてきたのです。ドイツのグリム、デンマークのアンデルセンなどによる有名な童話が、広く読まれるようになっていきます。