(出典:『伝説の校長講話――渋幕・渋渋は何を大切にしているのか』より)
「共学トップ」の超進学校・「渋幕」(渋谷教育学園幕張中学高校)と「渋渋」(同渋谷中学高校)。渋幕創設からわずか十数年で千葉県でトップの進学校に躍進させた田村哲夫氏は現在、同理事長・学園長を務めるかたわら、中学1年生から高校3年生までの生徒に向けた「校長講話」を半世紀近く続けており、その内容は、現代社会に生きる幅広い年代の視野も広げてくれます。中学1年生に向けて行った講話の一つに、本を読むことの楽しさ、大切さを説いた“「読書尚友」の楽しみ”がありますが、その内容とは――。

今につながる『古代への情熱』

前回の講話までに、考えることに優れた偉大な人たちを紹介してきました。夏休みの課題でシュリーマンの『古代への情熱』という自伝を読んでもらいましたね。君たちの感想文は全部読んで、なかなかよく考えられていると感心しました。

今から約2700年前、古代ギリシャの詩人、ホメロスが『イリアス』という叙事詩にトロイ戦争について記しました。人類が残した最古の詩の一つです。その詩を基に、シュリーマンは、こんな戦争があったのだろうか、あったとすれば伝説の都市の跡が残っているはずだ、と考えて遺跡の発掘を始めたんですね。

それは彼の一生の仕事であり、相当歳をとってからの挑戦でした。伊能忠敬とよく似ています。シュリーマンは非常に好奇心が強かったようで、開国して間もない日本をどんな国かなと面白がって見に来たということです。

数千年前の遺跡を発掘する考古学が何の役に立つのかと思うかもしれないけれど、今の時代とも様々な関係があるんですよ。

たとえば、シュリーマンがトロイの遺跡を発掘した現在のトルコにあたる地域では、人々が既に定住し、農業を始めていました。それ以前は狩猟採集をして移り住みながら生活していたのですが、集落を作って定住することで、集落同士の争いが戦争になっていきました。

新型コロナウイルスで知られるようになった「パンデミック」の語源は、実はギリシャ語です。人間が1か所に集まって定住しなければ、恐ろしい感染症が爆発的に流行するようなことはない。パンデミックという言葉は、その時代に町をつくったギリシャの人たちの言葉から来ているんです。