われながら思いがけなかったのは、その間の私の心の動揺です。涙こそこぼさなかったものの、精神の底が深く深く沈みました。
いよいよ私の、この世との別れ。どう受け入れ、どう立ち向かえるか。個人的に人生最大の正念場です。心の内は、正直言って、うろたえました。泣くほどのことはないけれど、心境を正直に言えば、
「え? もうおしまい? つまんないのォ」
といったところです。浮世にイヤなことはたくさんあるけれど、やっぱりこの世を生きることは面白い。
私はすでに、「回復不能時の余命延長医療はご辞退」の書類を作って、つねに携帯しています。覚悟十分の自信があったのに、わが精神の不確かさにちょっとうろたえました。
けれど3、4日するうちに、私は誰もが立ち向かってきた、命の正念場を迎え入れる覚悟ができてきました。
「仕方がない。誰もが迎えることだから」
死というものの持つ、これ以上ない公平性。一回性。受け入れざるをえません。