イラスト:赤池佳江子
病で勉強できず悔しかった10代、立っているだけで倒れる90代……。数々の病をなだめすかしつつ、いつまでも「助っ人でありたい」との決意も新たに。

<前編よりつづく

ふわーっと倒れて

私の日常は、「日々新たに」です。老いというものが、時々刻々、姿かたちを変えて、私の肉体と精神に迫ってくるのです。

たとえば、私が70歳くらいの頃。あるテレビ局からの仕事で、90歳前後の先輩女性に自らの「老い」を語ってもらい、アドバイスをいただくというものがありました。喜んでお引き受けしました。

日頃敬愛する加藤シヅエ先生もそのお一人。楽しみにしていたところ、自宅で転倒、骨折、手術ということで、「3ヵ月ほど延期できないか」とのお申し入れ。幸い交渉は順調に進み、あらためて設定された日時にご自宅に参上しました。ご自宅には段差もなく、障害となるようなものは見当たりません。

「どこでつまずかれたのですか?」とうかがうと、先生は、「90歳ぐらいになると、ただ立っているだけで、ふわーっと転ぶことがあるんですよ」。70代の私には、その場面がはっきりとは思い浮かびませんでした。

私、90歳のこの夏のこと。段差10センチほどの玄関の床に立っていたとき、特に何かの動きをしたわけでもないのに、ふわーっと玄関の三和土に倒れました。幸い気絶もせず、よいご近所に恵まれたおかげで、30分後には助っ人が3人も到着。病院勤務の娘にも連絡がつきました。

昔から言う、「遠くの親戚より、近くの他人」を痛感しました。幸い骨折はしなかったのですが、顔面と手足には打撲傷、顔には、赤、青、紫、色とりどりの大あざが長引き、まるで五色の〈お岩さん〉。