母の目を盗んで入れた面接の予約

最寄りのバス停で始発を待つ。駅前のファーストフード店で朝ご飯を食べて、求人誌の付録の履歴書を書いてみよう。証明写真を撮って、貼り付けて。駅の撮影機って、こういう時のためにあったんだ。

『母という呪縛 娘という牢獄』(著:齊藤彩/講談社)

朝8時。履歴書を仕上げ、テーブルに肘をついて居眠りをしていると母からの着信。出たくない。すぐに留守録とメール。

「どこにいるの!? 何をしているの!?」
「就職するので面接に行きます」

それだけ打ってサイレントモードにした。

矢継ぎ早に着信とメールが届く。

朝9時50分。私はエアコン製造工場の門前にいた。数日前、母の目を盗んで今日の10時に面接の予約を入れていたのだ。インターフォンを押して名前と用件を伝えると、作業服姿の男性がやってきた。父と同世代に見えた。

事務所に案内されると、20代前半の茶髪の作業服姿の女性がお茶を出してくれた。未来の先輩かも知れない。男性に促され、腰かけてから履歴書を渡す。