今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『「断絶」のアメリカ、その境界線に住む ペンシルベニア州ヨークからの報告』(大島隆著/朝日新聞出版)。評者は学者芸人のサンキュータツオさんです。

大統領選や中間選挙の激戦州から見る国の行方

「分断」なんて言葉で最近の社会を表現する人がいるが、どこの世界にも昔から分断はあった。日本の場合、職業差別や貧富の差、あるいはその温床となる無根拠な地域差別、出生地差別があった。

ただ、最近語られる「分断」はもう少し種類が変わっていて、世代間ギャップや、すぐ隣にいる家族でさえまったく違う「思想」や「思考」をしているのが問題化している、ということだろう。ただ本書を読めば日本のそれはまだ生易しいものだと気付かされる。分断ではなく「断絶」なのだ。

著者の大島隆さんは朝日新聞の記者。ワシントン特派員として渡米していたが、コロナ禍となった2020年夏、ペンシルベニア州のヨークで在宅勤務をすることになる。このヨークという街は面白いところで、ワシントンやフィラデルフィア、ニューヨークといった東部のどの大都市からも郊外にあたる位置。歴史ある街でありながら、観光で訪れるというよりは現地の人々が暮らす街という佇まいの場所で、剥き出しのアメリカがそこにある。

中心部は古くからある建物ばかりで、暖房もない部屋に貧しい人たちが暮らし、大通りを挟んだ外側には、街路樹と巨大な一軒家が並ぶ。そして大島さんはその大通りの目の前、貧富の「境界線」でなんとかこの場所を抜け出そうとする人たちが住まうシェアハウスのような場所に部屋を借り、同居人たちと関わりをもつなかで市井の人々へのインタビューをはじめる。

大家さんや、ドミニカ共和国からきた同居人すらトランプ支持者、おまけにQアノン(正体不明のネット投稿者)の信奉者も身近にいると知り、「断絶」を肌で感じる毎日だ。その生活のディテールと、出会った市井の人たちへのインタビューが本当に面白い。

日本もすぐそこにこの状況がある。他人事ではなく自分事として読む価値ありの一冊だ。