「オリンピックって、勝てばすごく注目していただける反面、負けてしまったらそれで終わり。メダルのあるなしで天国と地獄に分かれてしまうことが怖かった。」(撮影:大河内 禎)
東京オリンピックで、日本女子ボクシング史上初の金メダル(フェザー級)を獲得した入江聖奈さんを栄光へと導いた「強運」とは――(構成=吉井妙子 撮影=大河内 禎)

1ミリの悔いもなくピリオドを打てた

金メダル受賞後のインタビューなどで見せた、持ち前の明るいキャラクターから一躍人気者になった入江聖奈(せな)さん。在学中の日本体育大学を卒業後は競技から引退することを表明。昨年11月末、全日本選手権で優勝し、有終の美を飾った。

――ボクシングを始めてから14年間、東京五輪や世界選手権など数多くの大会に出場してきましたが、引退試合となった全日本選手権は、どの大会よりも楽しめました。

決勝戦の相手は大学の1年後輩の吉澤颯希(さつき)選手。ハードパンチャーの彼女は、2024年のパリ五輪を目指しています。

本来なら、彼女のパンチは痛いから受けたくないんですけど、リングに上がった以上は「後輩に負けないぞ」という気持ちと、「後を託した」という思いを拳に込めて打ち合いました。

自分のためのボクシングは、その数週間前に行われたアジア選手権で終えていたんです。決勝戦で負けて銀メダルだったんですけど、勝って喜び、負けて悔しがるという、自分のボクシング人生を凝縮したような大会だったので、1ミリの悔いもなくピリオドを打つことができました。

だから、全日本では引退試合だからと言って感傷的になることはまったくなかったです。