伊集院さんいわく、アイスとともに暮らした16年という歳月は至福の時間だったそうで――(写真提供:講談社)
ペットを飼った人が、かならず直面しなければならない別れ。執筆のため、仙台の実家と東京の仕事場を行き来する多忙な日々を送っている作家・伊集院静さんを支えてくれたのは、天国へと旅立っていった愛犬、ノボ・アイス・ラルクの存在でした。著書では、愛犬たちとのかけがえのない時間や、ペットロスから立ち直るためのヒントを紡いでいます。その伊集院さん、アイスが家に来たときには天使がやってきたのかと思ったそうで――。

家人からの電話

朝の五時前に目覚めた。
昨夜は三時近くまで仕事をしていた。

――どうしたんだ? 二時間しか眠ってない。

しばらく机に着いて、何をするわけでもなく、目の前の原稿の山を見ていた。

電話が鳴った。
家人からである。

この数日間、家人はメールでしか連絡をして来なかった。

ノボのお兄ちゃんの犬(アイス)が、一週間前から食事を摂らず、毎日、病院で点滴をしていた。家人はほとんど一晩中起きて犬のそばにいた。

昨日の朝は電話で、七日振りに立ち上がって、「ワン」と吠え、庭を数歩歩いたと連絡があり、家人も声が弾んでいた……。