懸命に過ごした一人と一匹
七年前の夜半に彼女の実母の死を報せる電話があり、仮眠(妹と交替で看病していた)を取っていた彼女に伝えた時も、彼女は黙ってうなずいただけだった。
泣いたり、取り乱すことをしない女性だ。
それが先刻の電話では涙声だった。
この数日間、よほど二人(一人と一匹)は懸命に過ごしたのだろう。
電話を切った後、東京の仕事机の上のアイスの写真を見ていた。
家人いわく、こんなハンサムな犬はどこにもいない、兄チャン犬の上機嫌な折の写真である。隣りのノボと好対照だ。
ともに暮らした16年という歳月は、私もそうだが、家人にとって、アイスにとって、至福の時間であった。