六頭目の犬との別離

電車の便を早めて、我が家にむかった。

車窓に映る冬の空が抜けるように青かった。

私の半生で、切ない時に、なぜか、自然がひときわ美しい姿を見せる。

私の半生で、切ない時に、なぜか、自然がひときわ美しい姿を見せる(イラスト:福山小夜/『君のいた時間 大人の流儀Special』より)

仙台駅から乗ったタクシーが我が家に近づくと、車のフロントガラスに映る小径は、かつて、散歩の大好きだったアイスが尾を振って走った径である。

家人は玄関で、私に気丈そうに笑った。しかし目頭は少女のごとく膨れていた。

こんなに清らかな犬の死顔を初めて見た。

犬が一抹でも不安を抱かぬよう、家人はずっと声をかけ、身体を撫でていたのだろう。首には、私と家人が、彼にとバルセロナの修道院で買い求めたロザリオがかけてある。

そのロザリオがアイスを不安から守ってくれているように映る。

少年の日から数えると、六頭目の、犬との別離である。それにしてもおだやかな表情である。