家族5人で乾杯
まだコロナ禍も前の、日曜の昼下がり。個室に入院していたAさんのもとに、長年連れ添った奥様のほか、独り立ちした息子さんや嫁いだ娘さん夫婦、まだ幼いお孫さんまで家族5人が全員集合しました。
痛みを医療用麻薬でコントロールしたAさんは顔色もよく、終始上機嫌です。
やがて、息子さんがゴージャスな箱を、もったいをつけながら取り出しました。
なんと、高級シャンパン「モエ・エ・シャンドン」です。
Aさんが息子さんに頼んで用意してもらった、とっておきの1本でした。
「オヤジ、いいか? いくぞぉ!」
息子さんの掛け声とともに、モエシャンのコルクが勢いよくポーンと弾けます。
「おおーっ」病院とは思えぬ場違いな晴れがましさ、華やかさにAさんも家族みんなも大興奮! この世のものとは思えぬ美しい泡が、コンビニの使い捨て透明カップにトクトクと注がれていきました。
大人はシャンパン、子供にはシャンメリーが配られ、乾杯です。
「みんな、今までありがとうな。これからも仲良くな」
「お父さんも、今まで本当にありがとう!」
病室でシャンパンの泡のように弾けた笑顔は、やがてみんなの泣き笑いになり、あたたかな空気に満たされていきました。