この出来事が浮き彫りにしたのは

結婚に関するお金の問題、勃発である。
好きという気持ちだけでは一緒にはいられない。お金の問題は絶対に避けては通れない。

いきなりの出来事に動揺して翔平が実家に来る予定をキャンセルし、その後も翔平からの電話に出られなかった美帆だったが、翔平から「母親がもう一度会いたがっている」という連絡が来て、翔平とその両親ときちんと向き合うため、翔平の実家に再び出向く。
しかし、翔平の両親の考え方は、自由に生きたい、そっちはそっちで勝手に生きてくれ、お金はないからローンは払えない、といったもの。

両者の考え方の違いはより明確になり、溝は深まってしまう。
美帆は教育ローンを翔平に押し付けたことに怒りを覚えるが、翔平は両親が美大進学を許可してくれたことに感謝しており、教育ローンを組んだこと自体も仕方なかった、両親が返済できないなら自分が背負うことはやむを得ない、と受け入れる。
美帆を巻き込みたくないから、デザイナーの仕事を辞め、転職して給料を上げると言い出すが、美帆は好きなことを諦めるのは違う、と反論。言い合いになり、美帆は結婚の話を白紙にしてほしい、と伝えるのだった。

お互いを想い合っているのに、いや、想い合っているからこそ、絶対に譲れないことが出てくるし、殊にお金の問題は考え方の違いが、致命的なすれ違いを生むことがある。
この出来事が浮き彫りにしたのは、ふたりの育った環境の決定的な違いではないだろうか。

美帆も翔平も、お金に堅実、実家はお金に困っていないという点では一緒かもしれない。
しかし、根本的に育ってきた環境があまりにも違い過ぎるのだ。

美帆からすれば、子どもにローンを押し付ける両親は信じられない、という感覚だろうが、私はどうしても翔平側に感情移入してしまう。
教育ローンといっても、奨学金とさほど変わらない。奨学金も利子はかかるし(利子なしのものもあるが、条件が厳しく、利子が有るものよりも借りられる上限金額はかなり小さくなる)、美大を卒業させるのに400万円で済んだのはむしろいいほうだろう。逆に400万円で済んだのはある程度両親が負担したからだと想像する。

写真提供◎AC

親が学費を払い、仕送りをしてくれる人はマジョリティではあるが、そうではない人からしたら、親がお金を負担するという前提がまず信じられなかったりする。
世の中には今も、親が学費を負担するのが当たり前ではない家庭だってあるのだ。
うちも「大学は好きにいったらいいがお金は1円も出せない」という家庭だった。さらには親に仕送りする場合だってある。そんな私も、美帆のような”普通”の家庭で育った人からしたら、信じられない、とまで言わなくても、特殊な人、に見えるだろうか。