金銭リテラシーは目に見えない資産、文化資本の一つ

奨学金を借りる人は増加の一途を辿っており、2019年度には大学・短大に通う学生のうち2.7人に1人が借りているというデータもある(今野晴貴「死んでチャラにしようと思った」 奨学金3000件調査から見えた「生の声」より)。奨学金を借りている人からしたら、社会人になって数百万円の返済があることは当たり前の現実。美帆が社会人になってゼロから積み上げられるのは、両親がお金を負担してくれていたからに他ならない。

また、客観的に見ると美帆の実家はかなり恵まれた条件だ。都心のオフィスに通える圏内に持ち家があり、母親が専業主婦でも暮らせるだけの収入が家庭にはある。
調度品や掃除の行き届いた部屋、手の込んだ品数の多い料理からも、豊かさが滲み出ている。
美帆は、中古の一軒家購入を決意したあと、黒船スーコのセミナーに参加する。

黒船スーコは魔法の数字、8×12を伝授する。8×12とは、毎月8万円を12か月貯金する、ということ。さらにボーナス支給時に2万円ずつ貯金すると1年間で100万円貯まる、という計算だ。それを10年続ければ1000万円貯まる。
美帆は最初、この数字を聞いて無理だ、と思うのだが、一人暮らしの家賃が9万8千円だったため、実家に引っ越すことで一瞬でコストカットができ、1ヵ月8万円の貯金が実行出来てしまうのだ。実家が都内、しかも通勤圏内最強過ぎる!
さらに両親との関係が良好で、両親が経済的に困窮しておらず、家事をしてくれるという条件も、かなり強烈なアドバンテージだろう。

写真提供◎AC

そんな、世間一般から見れば大きなアドバンテージがある美帆だが、なによりも恵まれているのは、祖母、親が並々ならぬ金銭リテラシーがあるということ。これは決して当たり前ではない。美帆には、家族は試行錯誤の上、努力して節約し生活を守ってきたという自負がある。

それゆえに、計画性のない翔平の両親に対して、理解できないという思いが強いのかもしれない。
美帆の家族が堅実に努力してきたのは事実。ただ、金銭リテラシーは目に見えない資産であり、文化資本の一つ。そして本人の努力だけの問題と思われがちだが、世代間で受け継がれていくものの最たる例だ。金銭リテラシーのない人は怠惰だと思われがちだが、辿っていくとその両親、祖父母も乏しかったりもして、本人のことを一概には責められない部分も大きい。