数日間のことをまったく覚えていない

医師によると、「せん妄」という状態らしい。入院によるショックで、一時的に認知症のような症状が出ることがあるそうだ。結局、私のことすらわからない状態が3日間続き、4日目にようやく意識がはっきりしたのである。

この数日間のことを母はまったく覚えていない。ただ、夢を見たそうだ。夢の中では美しい花畑にいて、離れたところから3匹の猫が母を心配そうに眺めていたとのこと。1匹は昔うちで飼っていたちび太。2匹めは近所の家で飼われていて、わが家によく遊びにきていたポップ。

そして3匹めは、野良猫の茶太郎だ。野良だがとても人懐こく、母は餌をやってかわいがっていた。のちに母は「この3匹が夢の中で守ってくれたから、せん妄から抜け出せたのよ」と何度も言っていた。

 

母の介護で心身ともにくたくたに

その後、MRIや血液検査、投薬などが行われ、母は順調に快復。しかし、心配なのは入院前の状態に戻れるかどうかである。医師は、もとのように動けるようになるのはちょっと難しいと懸念している様子。私はせめて、家の中だけでも歩けたらそれでよしと覚悟した。

退院が決まるとすぐにバリアフリーを目指し、玄関や廊下、風呂場、トイレにも手すりを設置。しかし、家での介護は想像以上に大変だ。母は自分の力ではベッドから起き上がれず、父と私で持ち上げねばならない。夜中にトイレへ行くたびに、2人がかりで連れて行くので睡眠不足になってしまう。それでも私は早起きをして食事の準備。父は茶碗を洗うくらいはできても、料理はもちろん、そのほかの家事も全然ダメときている。

会社にいるときもいつ何時、具合が悪いと電話が入るかわからず、落ち着いて仕事ができる状態ではない。退社後は急いでスーパーへ直行し、惣菜を買いこみ……たった10日間の介護生活なのに、私は心身ともにくたくたの状態になっていった。