記録として残さなければと
仮設住宅で暮らす2人の女性を主人公にしたドキュメンタリ―映画『飯舘村の母ちゃんたち 土とともに』を公開したのが16年。23年3月公開予定の『飯舘村 べこやの母ちゃん-それぞれの選択』を撮り始めたのはそれよりも早く、震災の年の5月からでした。
今回の映画には前作の主人公とは別の、3人の「母ちゃん」が登場します。「べこや」というのは牛飼いのこと。この地域はかつてブランド牛の産地として知られ、また酪農が盛んな土地でした。しかし震災の後、飯舘村では牛乳の出荷も、牛を移動させることも、牧草地の草を食べさせることさえ禁止になってしまいます。全村避難により、村民の多くが暮らしやなりわいを失いました。
『べこやの母ちゃん』は、そんな厳しい状況の中でも力強く生きる女性たちの日常と、その後の人生の選択を追ったものです。
震災の後に初めてこの地を訪れたとき、ちょうど今回の映画に登場する「母ちゃん」の一人、中島信子さんが牛たちを手放すためにトラックへ載せるところに立ち会いました。
飯舘の牛飼いの家では、女性たちは本当に牛たちのお母さんみたいな存在なんですよ。自分の子どものように哺乳瓶でミルクを与えて、丁寧に世話をする。そうやって大切に育ててきた牛を殺処分せざるを得なくなって、信子さんは「ごめんね、ごめんね。今までありがとうね」と涙しながら牛たちに言葉をかけていました。
彼女は普段おとなしい方なんですが、そのときは人が違ったように、「牛に申し訳ない」とか「最後に体を洗ってあげた」「この子たちが言葉を話せたら何と言うだろう」と、すごく悔しそうに訴えていらして。これはやはり記録として残さなければいけないと思ったんです。