曽野さん、難民の支援活動をする中で「100%支援という援助の方式に、深い疑問を感じるようになった」といいますが――(写真提供:Photo AC)
国連の難民支援機関の活動を支える日本の公式支援窓口「国連UNHCR協会」によると、2021年に”難民”と呼ばれる人々は約2710万人にも上っています。一方で、作家・曽野綾子さんは、ボランティア組織を通じ、そうした難民の支援を精力的に行ってきました。その曽野さん、活動の中で「100%支援という援助の方式に、深い疑問を感じるようになった」そうで――。

難民という資格に居座る人々

いつの頃からかはっきり年代を示すことが私にはできないのだが、世界には難民(なんみん)と呼ばれる人々が発生するようになり、それからしばらくして、難民救済(きゅうさい)の世界的組織ができるようになると、その組織からの救済を当てにして暮らす人々が存在するようになった。

たとえばネパールの東部で国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の経営する難民キャンプには、二軒長屋の住居一棟に対して一個ずつのトイレが設備されていた。

住まいは日本人から見るとほんとうの掘っ立て小屋だが、この衛生設備だけでも画期的なものなのである。

その他、決まった曜日に、炊事用の灯油や、粉や砂糖などの基本的な食料の配給もある。医療は多くの場合、登録された難民は無料である。

そこで利にさとい人間の共通の選択として、難民という資格に居座る人々が出るようになった。私が秘(ひそ)かに名付けている「難民業」という新たな「業」と「資格」の発生である。