ただ、自分の不安を、もっと不安になっている患者さんに引き受けてもらうのは、ちょっとオトナゲないなぁと思います。

それよりも、不安がる患者さんに安心を与えてあげて、心を軽くしてあげたほうが、お互いに気持ちいいんじゃないでしょうか。

この場合の安心というのは、「情報」です。

例えば、私だって街中で突然、「いつもお世話になっています。私が誰だかわかりますか?」なんて聞かれたら、しょっちゅうお会いしている相手でない限り、答えられません。

でも、「父のことでお世話になっています、多治見市のヤマダです」と言っていただけたら、頭の中のあいまいな記憶が繋がって、「ああ、ヤマダさんですね! こんにちは。その後、お父さんはどうですか?」と気楽に答えることができるでしょう。

試すのではなく、情報を差し出してもらえたら、そこから気負いなく会話をスタートできるわけです。

こんなふうに、こちらから情報を伝えるコミュニケーション方法を、「リアリティ・オリエンテーション」と言います。

これは、認知症介護のプロが使う患者さんの不安解消法で、「いつ、どこ、だれ」がわからなくなっている患者さんに、今の状態をさりげなく伝えて、混乱を防ぐテクニックです。

例えば、「今日は何月何日?」と聞くのではなく、カレンダーを見ながら「今日は3月3日、ひな祭りだね」と伝える。そうすることで、患者さんは「なるほど、今は春なんだな」と自然と理解することができます。

あるいは、「ごはんだよ」ではなく、「晩ごはんだよ」と伝える。すると、患者さんは「今は夕方なのだ」ということがスムーズにわかるわけです。