「お金盗った!」は介護の勲章

否定せず、〈頭の中で見えている現実〉に寄り添ってあげることで安心する「幻覚」と違い、寄り添うだけではなかなか満足してくれないのが、「モノ盗られ妄想」が出てきた患者さんです。

モノ盗られ妄想とは、周辺症状で出てくる「妄想」の一種で、財布や通帳など金目のものを盗まれたと思い込むこと。

自分の管理能力に自信がなくなった患者さんは、大事なものほど誰かに盗られないように、頻繁に隠し場所を変えたがります。しかし、隠したことを忘れてしまい、誰かに盗まれたと思い込むようになります。やがて、家族に向かって「アンタ、私のお金、盗ったやらぁ」と言うようになるのです。

家族が財布や通帳を見つけてあげても、

「フン、アンタが盗んだものを、見つけたフリして持ってきたんやらぁ」

「うちには泥棒がおるんや」

とネチネチ責めるのをやめません。

責められたご家族の中には、「おばあちゃんが自分でそこにしまって、忘れちゃったんやらぁ」と懸命に説明する方もいますが、残念ながら説明するのは意味がありません。

先ほども言ったように、この時期の患者さんは、自分がまちがっている可能性に気づけません。筋道立った話も理解できなくなっていますから、説明されると混乱して、かえって怒りだすのです。