心の中で〈おおきに〉
〈そうやったのね! もっとしゃべったらよかったなあ〉
大いに後悔した。彼は関西の人に違いなかった。
おねえさん、ねえちゃん。そこそこ若い見知らぬ女性に声をかけるとき、関西の人はそう呼ぶことがある。
これらもまた敬称なのだ。「奥さん」とか「そちらさん」と呼ばれるよりも、敬意と親しみがこもっている。
そう感じるのは、私も関西人だからか。高齢者ではないが、でも自分よりも年長の私を、彼は「おかあさん」と呼んだ。
降りていく背に向かって、心の中で〈おおきに〉と言った。
そういえばあのときも「おかあさん」と呼ばれたのだったっけ。