作家の石井さんは子どもたちに向けて「苦しい時代を生きていくために、まず君たちが生きている『今』について理解してほしい」と主張します(写真提供:Photo AC)
子供が感じている精神的幸福度が、先進国38カ国のうち37位とされた日本(ユニセフ「レポートカード16」の「子どもたちの幸福度ランキング」より)。現実を見れば、子供のうち7人に1人が貧困、15人に1人がヤングケアラー、小中学生の不登校は24万人以上といったデータもあるなど、多くの子供たちが息苦しさに覆われているのは事実かもしれません。作家の石井光太さんはそんな子どもたちに向けて、「苦しい時代を生きていくために、まず君たちが生きている『今』について理解してほしい」と主張しますが――。

格差社会の中で求められるもの

――AI(人工知能)に負けないグローバル人材になろう。

君たちは、一度はそんな言葉を聞いたことがあるのではないだろうか。学校から習い事に至るまであらゆるところでそんな標語が掲げられている。最近は幼稚園や保育園でさえ、生徒募集のためにこの言葉をつかっているほどだ。

なぜそんなことが求められているのだろう。それは社会で日々深刻さを増している「経済格差」という問題が深くかかわっている。

日本では20年以上前から格差の拡大が指摘されるようになり、近年は国家の重大問題にまで発展している。格差の上層にいる人たちは膨大な富を手にし、下層にいる人たちは社会福祉なしでは生きていくことさえままならなくなっている。しかも年々中間層が減り、持てる者と持たざる者との差が開いているのだ。

あと10年もしないうちに、これまで人間がやってきた仕事の大半はAIに取って代わられ、それは格差を一層拡大させることにつながると考えられている。だからこそ、大人たちは子供に対して「AIに負けない能力をつけろ」と言い、世界で類を見ないほどの少子高齢化の日本を脱して「グローバルに活躍しろ」と発破(はっぱ)をかける。

今の子供たちが、とても早い段階から外国語の学習をさせられたり、プログラミングを教えられたりしているのはそのためだ。ディベートやスピーチやレポートの練習も盛んにやらされる。それは、大人たちが世界で戦える優秀なビジネスマンを育成しようとしているからだ。

君たちがそれを望むかどうかは別にして、日本は、いや世界はそのような方向へものすごい勢いで突き進んでいる。大学入試、就職試験、ビジネスなど、様々なところでその力を試され、点数化されている。

「将来、安定した生活をしたければ、子供のうちに必死になってがんばりなさい」

大人たちのこうした言葉の裏にあるのは、我が子が格差社会の中で下層に落ちることへの底なしの不安だ。

最初に考えてもらいたいのは、君たちが生きている、そんな「今」という時代についてだ。

時代というのは、言ってみれば君たちが2本の足で立っている大地だ。その大地は、格差が生み出す諸問題によって無数の凹凸ができている。君たちは足元をきちんと見なければ、足を取られてつまずくことになる。日本にある格差とは一体何なのか。そのことについて見ていこう。