「この人は本気で残りの人生に懸けてるんだって感じて、もしかしたら私の人生にも希望があるのかなと思えてきたの。夢見てもいいのかなって」(幸子さん)

過去があるのはお互いさま

幸子 私は、吟さんが幼少期に養子に出されて、親戚をたらいまわしにされながら育ったなんて想像もしていなかった。でも苦労している人だから信頼できるというのもありました。

 根っこにある寂しさみたいなものと、3回目の結婚に挑んだことは無関係ではないかもしれないね。

幸子 2回目かなと思っていたのだけれど。

 俳優になった20歳の時には、すでに結婚して息子がいた。でもそのことは事務所が伏せていたからね。27歳で再婚した時には2人の息子を連れて、前の女房も息子を1人連れてきた。その後に4男が生まれたんだけど、そんな複雑な事情は女房の意向で公表しなかった。彼女は膵臓がんで死んだから、君とはがんで配偶者を亡くすという共通項もあったんだよね。

幸子 それ以前に、吟さんが奥様の介護を15年もしていたという話に驚きました。

 重度のパニック障害で目が離せなかったから、地方ロケの仕事は断って……。

幸子 いろいろあったのね。

 僕の役者としてのイメージはほのぼのしてるでしょう?家庭内の深刻な話は外でしないほうがいいというのがあったんだ。でも前の女房が亡くなって、これからは本当の自分をさらけ出して生きていきたいと思ったんだよね。だから僕は君と知り合う前に、家にあるものを全部処分しちゃった。トラック5台分の荷物を捨てたら心が軽くなったよ。

幸子 確かに私が入った時にはスッキリしてました。

 前の女房と暮らした家に来てもらうのはどうかなと思ったけど、仕事の都合で引っ越すわけにもいかなくて。そういう意味では過去にこだわらない人が理想だったかもしれない。

幸子 過去があるのはお互いさまですから。お互いに70年も生きていたらねぇ。

 前のご主人に対するライバル心がないわけでもないんだけど。前の結婚のほうが幸せだったとは言わせないぞ、みたいな意地はあるね。(笑)