幼いときから好き

どうも不思議な事には酒造家であった私の父も母も祖母もまた私の親族の内にも誰一人特に草木の嗜好者はありませんでした。

『好きを生きる―天真らんまんに壁を乗り越えて』(著:牧野富太郎/興陽館)

私は幼い時から何んとなしに草木が好きであったのです。

私の町(土佐佐川町)の寺子屋、そして間もなく私の町の名教館(めいこうかん)という学校、それに次で私の小学校へ通う時分よく町の上の山などへ行って植物に親しんだものです。

即ち植物に対しただ他愛もなく趣味がありました。

私は明治七年に入学した小学校が嫌になって半途で退学しました後は、学校という学校へは入学せずにいろいろの学問を独学自修しまして、多くの年所を費しましたが、その間一貫して学んだというよりは遊んだのは植物の学でした。