4 酒と煙草は嫌い
私は酒と煙草とは生来全く嫌いで幼少時代から両方とも呑みません。元来私は酒造家の息子なれども幼い時分から一向に酒を飲まなかったのです。
従来此酒と煙草とを用いなかった事は私の健康に対して、どれほど仕合せであったかと今日大に悦こんでいる次第です。
故に八十六の此の歳になっても少しも手が顫わなく、字を書いても若々しく見え敢て老人めいた枯れた字体にはならないのです。
又眼も良い方でまだ老眼になっていないから老眼鏡は全く不用です。そしていろいろの書き物写し物は皆肉眼でやり、又精細なる図も同じく肉眼で描きます。
併かし、頭髪は殆んど白くなりましたが、私は禿(はげ)にはならぬ性です。歯は生れつきのもので虫歯はありません。此頃は耳が大分遠くなって不自由です。
それから頭痛、逆(のぼ)せ、肩の凝り、体の倦怠(だるさ)、足腰の痛みなど絶えてなく按摩は私には全く用がありません。又下痢なども余りせず両便とも頗る順調です。