5 鼻で呼吸する

私は文久二年四月の生れですが、まだ物ごゝろの附かぬ時分に早くも両親に訣れて孤児となりました。

我が家の相続人に生れた私は幼ない時分には体が弱々しかったので家人が心配し時々灸をすえられたが、其れから後次第に息災となり余り病気をした事がなく、そして何等持病と云うものがありません。

先生の身体は檜造りで何処も何等の異条がないと褒められた事もありました(写真提供:Photo AC)

併かし今から最早や二十年程前に医者に萎縮腎だと言われましたが、小便検査にも一向蛋白が出ず、或は時々山に登り或は相当に体を劇動させても爾後何の異条もなく今日に及んでいます。

併かし此二三年以来重い物を抱える際に突然座骨神経痛様の強い痛みが偶発する事があるが其れは凡そ一ヵ月位で自然に全快します。

又昨年以来不意に三度も肺炎に侵されしが幸に平癒して以来何んの別条もなく、此頃は一向に風邪にも罹らず過ぎ行いています。

数年前に本郷の大学の真鍋物療科で健康診断をして貰った事があったが、其時血圧は低く脈は柔かで若い者の脈と同じだ、これなら今後三十年の生命は大丈夫だと、串戯(じょうだん)交りに言われた事があり、そして此血圧の低い事と脈の柔かい事から推しますと先ず私は脳溢血に罹る事はない様に思われます。

又或る医学博士は、先生の身体は檜造りで何処も何等の異条がないと褒められた事もありました。