和田先生曰く、長くなった「余生」をどう捉えるかが、より重要な時代に入っているそうで――(写真提供:Photo AC)
厚生労働省が発表した「簡易生命表(令和3年)」によると、男性の平均寿命は81.47年、女性の平均寿命は87.57年(2022年度)で、いずれも40年前からは9歳程度伸びたことに。一方、高齢者、老年医学を専門とする精神科医である和田秀樹先生によると、人間の本質的な老化のスタートとは「感情の老化」であって、その意味では長くなった「余生」をどう捉えるかがとても重要だそうで――。

以前の理想的な老後

老人は家で孫の面倒でも見ながら、おとなしく暮らしているのが「日々是好日(にちにちこれこうじつ)」、という幻想がある。

なるほどかつてはそうだったかもしれない。

1955(昭和30)年、日本人の平均寿命は男性63・60歳、女性67・75歳と非常に短かった。70年ほど前までは、男性の場合、50代半ばで定年になると、余生は10年もなかったのである。

あくまでこれは平均値だから、長生きする人ももちろんいたけれども、総じて60代は現代よりもずっと老けこんでいた。

核家族化もそれほど進んでいなかったので、それこそ孫の世話をしながら余生をにこやかに送るのが理想的な老後だったのだ。現在の中高年が生まれたのは、そんな時代だった。

つい最近までそうだった、と言えなくもない。