(写真提供:石井ふく子さん)
『渡る世間は鬼ばかり』『ありがとう』など、数々の名作ドラマを世に送り出し、96歳になった今も仕事を続ける現役最高齢のドラマプロデューサー・演出家の石井ふく子さん。その毎日は縁を大切に育てる「おかげさまの心」にあふれています。2021年4月4日に逝去され、本日3回忌を迎える盟友・橋田壽賀子さんとの最後の思い出とは――。

入院中の橋田さんとドラマの構想を練った

橋田さんが亡くなったのは2021年の4月ですが、実はその年の9月20日、敬老の日に、『渡る世間は鬼ばかり』の3時間スペシャルドラマが放映されることになっていました。ですから橋田さんが入院中も、私たちはドラマの構想について話し合っていたのです。

コロナ禍のせいで、鬱々としている人も多い時期。だからこそ、明るいドラマにしようということで意見が一致。

ところがある日、「完成できなくて、ごめんなさい」と、いつになく弱気なことを言います。ですから私は思わず、「そういう言い方はしないでよ」と、ちょっときつく言ってしまいました。

「本当は、もう脚本を渡さなきゃいけない時期なのに……ごめんね」

橋田さんがそんなふうに謝ったり、弱気なことを言ったりするなんて、それまでなかったことです。私は、「謝ることないわよ。書けばいいんだから」と、いつも通りの言い方で励ましました。