東京・歌舞伎座の「鳳凰祭四月大歌舞伎」夜の部『与話情浮名横櫛』に出演する人間国宝の歌舞伎俳優・片岡仁左衛門さん(写真撮影:本社・奥西義和)
人間国宝の歌舞伎俳優・片岡仁左衛門さんが、東京・歌舞伎座の「鳳凰祭四月大歌舞伎」夜の部『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』に出演し、江戸の二枚目、与三郎を勤めている。与三郎と道ならぬ恋に落ちるお富を演じるのは坂東玉三郎さん。昨年6月に上演予定だったが延期となり、このたびファンの熱望に応える。コロナ禍で一時休演に追い込まれた歌舞伎は復活しつつある。仁左衛門さんは「とにかく明るいお芝居。お客さまに元気になっていただきたい」と役への意気込みを語る。
(構成◎山田道子 撮影◎本社・奥西義和)

「鳳凰祭四月大歌舞伎」『与話情浮名横櫛』に出演

与三郎は、江戸の小間物商伊豆屋の元若旦那。訳あって放蕩をした末の木更津の海岸で土地の親分・赤間源左衛門の妾、お富に出会い、お互い一目ぼれでただならぬ関係になる(木更津海岸見染の場)。赤間の別荘で密会するも源左衛門に見つかり、与三郎は体に34カ所の刀傷を受け、お富は海に身を投げる(赤間別荘の場)。それから3年。鎌倉・雪の下の源氏店で2人は再会する(源氏店の場)。「しがねえ恋の情けが仇」で始まる与三郎の名せりふでも知られる『与話情浮名横櫛』は、歌舞伎屈指のメロドラマだ。

とにかくお客様に気持ちよく見ていただけなければいけないお芝居です。私の出身の上方(関西)歌舞伎はどちらかと言うとドラマ優先の作品が多いのですが、江戸(関東)ではドラマを見せながら役者も見せる要素が大きい狂言が多いです。特にこの芝居はストーリーに反して明るく見せる芝居。難しいことは考えずに演技やセリフを気持ちよく見ていただけるよう作っていきたいと思っています。

今回上演の部分に関しては現代にもあり得るお話ですが、それをいかに歌舞伎独特のタッチで美しくお見せするか。「赤間別荘の場」はかなり残酷な場面もありますが、それを直に感じられないように演じます。「源氏店の場」で、源氏店にやってきた与三郎は家の外で待っている時、しょんぼりしています。気持ちは陰。ですが格好よく待っていなければなりません。格好よさだけではなく、若旦那が落ちぶれた哀愁もにじませなければならないのです。また、この場のせりふは広い意味で音楽的要素が大事です。

このような歌舞伎の多様な演出をお客さまに知っていただき、楽しんでほしいですね。

『与話情浮名横櫛では江戸の二枚目、与三郎を勤める仁左衛門さん(写真撮影:本社写真部)