お気に入りの小物を飾った賑やかな玄関。「干支の動物たち、娘が子どもの頃に作ったふくろう、インカ帝国の遺物のかけら、古希のお祝いにもらったオトキさん人形……すべて『私のお守り』です」

母が教えてくれた人生を豊かにするもの

夫が環境保全型農業に取り組んでいた「鴨川自然王国」は、私のもう一つのホーム。夫亡きあと、その欠落感を埋めるように私は鴨川に足繁く通うようになり、草取りや田植えもして。おかげで環境や農業の問題に関心を持ち、世界に対する視野も広がりました。

2022年末には、自伝的な随筆『百万本のバラ物語』を上梓しました。私が歌い続けている「百万本のバラ」はもともとロシア語のラブソング。私は戦中のハルビン(旧満洲)で生まれ、そこには多くのロシア人が暮らしていました。

父はロシア音楽を愛し、戦後日本に引き揚げてからロシア料理店を開業。ロシアとの縁が深い私は、ウクライナ侵攻のニュースに慄然としました。私たちが一緒くたに「ロシア」と呼んでいたものが分断され、戦う理不尽さに困惑して。今こそ、父や母、私の体験とともに、ロシア周辺国の激動の歴史と、そこに生きる人々の物語を書いておかなければと思ったのです。

同時に、ロシアの侵攻により故郷を追われたウクライナの人たちを支援するため、「百万本のバラ」のほか、オリジナル曲などを収録したチャリティーアルバム『果てなき大地の上に』の制作も行いました。

『百万本のバラ物語』(著:加藤登紀子/光文社)