タイトルを「土竜」にした理由

たちまち夢中になりました。とはいえ小説の作法がわからず、一気に書き上げた第一稿を読んだ編集者からのアドバイスもチンプンカンプンだったのですけれど。(笑)

何よりも先に「さぁ、どうやって読者を裏切るか」と考えたのは、役者として数々の優れた脚本を読んできたからだと思います。映像が頭に浮かんできて、それを編集するようにして構成していきました。

たとえば「アロエの葉」という短篇は、「アロエをつけとけば治る」と口癖のように言っていた祖母こそが、僕にとってアロエみたいな存在だったというイメージから組み立てた物語です。

小説を書くにあたり、地元で取材をしたのですが、母が僕のことを「可愛いやろ」と自慢していたと、母の知人から知らされて……。自分は救いようのない寂しさを抱えて生きてきたけれど、本当は十分に愛を注がれていたのではないかと、書くごとに心が浄化されていくのを感じました。

「土竜」というタイトルをつけたのは、一生土の中に埋めておこうと封印していた過去が、ひょっこり顔を出したようだと思ったから。

収録している6つの短篇の舞台は、故郷・高知です。僕自身を投影した竜二の半生が中心となっていますが、一篇ごとに主人公を変えることで、竜二を取り巻く登場人物の誰もが、生きづらさを感じながらも必死にもがいている様子を伝えたいと考えました。

一貫して書いているのは、「生きることは誰にとっても厳しいけれど、こんな僕だって歩み続けているのだから諦めないで」というメッセージ。高知東生の小説を読んだら希望が湧いてきた、と言っていただけたら本望です。