僕は小説を書こうと決めた
講演を通して、自分の体験を語ることがセルフカウンセリングにつながると感じてはいたものの、自伝的小説を書くなんて発想はまったくなかった。編集者から連絡をいただいた時も、「誰に言ってるんですか?」という感じでした。
僕が毎日、自分の心情を綴っているツイッターを読んでピンときたということでしたが、ロクに小説を読んだことすらない自分には到底無理だと、最初は断ったんです。
それに、新しいことに挑戦して悪目立ちした挙句、空回りして恥をかくのが怖かった。でも田中さんから、「なぜ断るの?再生に向けて大きく踏み出すための得難い機会を逃す手はない」と言われてハッとしました。
僕の生い立ちは複雑で、物心ついた頃に暮らしていたのは親戚の家、育ててくれたのは母方の祖母でした。時々家に来る優しいオバサンが母だと知ったのは思春期の頃。父は地元で有名な暴力団組織の組長で、母はその人の愛人だと知ったのは青春時代です。
僕が高校生の時、母は「やくざにだけはなるな」と言い残して自殺し、その後、父親だと思っていた組長は実の父ではないと知らされます。嫌気が差した僕は、成りあがりたい一心で上京し、やがて芸能界に入りました。
なかったことにしたい過去と向き合うのはつらい。でも、すべてを洗いざらい書くという作業は、なぜ自分は道を踏み外したのかという自己分析につながるだろう。そこを乗り越えなければ先はないという思いに衝き動かされるようにして、僕は小説を書こうと決めたのです。