「家で仕事をするようになったことで、仕事の仕方だけではなく、夫婦の関係性も変わってきた。それが新鮮です」

自分の時間を手に入れて

自宅で仕事をするようになり、環境が大きく変わりました。1階に僕の仕事場があって、奥さんの部屋は3階で、2階が食事をしたりくつろぐ部屋。仕事場にはだいたい6、7時間いるかなぁ。

奥さんは、僕が仕事場にいる間は、階段を降りる時もあまり足音を立てないように気をつけてくれる。たまに2階のトイレの前あたりでばったり会って、「あっ!」なんてびっくりしたり(笑)。とにかく一日中、すごく静かなんです。

店の2階にいた時は、商店街の喧騒や階下の物音、気配が常に感じられた。知り合いのお客さんが来ると、奥さんから呼ばれて階下に降りていく。面倒なことを言って奥さんを困らせるお客さんがいたら、仕方なく僕が2時間くらい対応することも(笑)。

常にカオスのような状態で仕事をしていました。その混沌とした状態に拮抗できるだけの肉体的、精神的エネルギーがあったんでしょうね。

でも年齢もあって、もうそれだけのエネルギーがなくなった。そんな時、落ち着いて仕事ができる環境があることがどれほどありがたいか。時間が細切れではなくなり、1つのことに集中できる。今は小説も詩もやめて、静かな環境で、時間をかけてじっくり一冊一冊の絵本に取り組んでいます。

奥さんは以前から朝鮮に対して社会学的な興味を抱いており、今はかなり真剣にその勉強をしているようです。自室で本を読んでいることも多いし、知識が得られる場を求めて外出もする。やっと、自分が本当にやりたいことに取り組む時間ができたんでしょうね。お店を手放したことで、彼女にとっても、新しい時間が始まったわけです。

お店にいる時と違い、僕も彼女も、お互いの領分を邪魔しないよう気を使うようになりました。家で仕事をするようになったことで、仕事の仕方だけではなく、夫婦の関係性も変わってきた。それが新鮮です。

時間がゆっくり流れるようになったので、3人の孫ともじっくりつきあうようになりました。孫たちと遊んでいると、子どもが何を面白いと思い、何に興味を持つかもよくわかる。見ているだけでも面白いし。孫たちと過ごす時間も、どこかで絵本に反映されているんだろうね。