手放すことで新たな道が開ける
振り返ってつくづく思うのは、ある程度の年齢になったら、何かを手放す決断をしないと後が続かない。欲張っちゃダメだね。あれもこれもと思っていると、それができない自分に絶望したり、苛立ったりする。
僕の場合、「表現をしたい」という欲求は、何歳になっても変わらずありました。でも体力が衰え、小説や詩を生む力も細っていたのにそこにしがみついていたら、精神的に相当きつい。今思えばその葛藤が、70歳前の「昼間も布団をかぶっている毎日」だったんだと思います。
でも、「これはもう諦めよう」と自分で心を決めて、思い切って手放してみると、風通しがよくなって新しい考え方が入ってくる。
僕の場合は、店と小説と詩を手放しましたが、そのおかげで絵本に集中しようという覚悟が生まれた。いわば新しい地平が広がったわけです。今の僕には、絵本という表現が残されています。1つのことをきっちりやれば、僕は「表現をしたい」という欲求を満たすことができます。
しかも絵本の場合、画家とのコラボレーションによって、僕が書いたものが2倍どころか3倍、4倍の力のある作品になるわけです。本当に素敵な世界だなぁと思います。
2月には、僕が手がけた『ゆかしたのワニ』『ワニはなび』『オニとワニ』に絵を描いてくれた3人の画家のワニ絵本原画展が開かれました。主役は画家なので僕は裏に引っ込んでいようと思っていたんだけど、そうもいかなくて。それまで画廊には、絵を見るために《客》として訪れたものでしたが、今回はお客様を待つほうだったのが新鮮でした。
今年の6月で75歳。この先どんな絵本を生み出せるか。今、子どもみたいにワクワクドキドキしています。