2022年12月にオープンした吉祥寺店。開店と同時に赤ちゃん連れの家族やシニア層、おひとりさま、学生などが次々と訪れる

そうこうしているうちに、エッセイや小説を集めた『スプーン一杯の幸せ』が売れて。読んでいただけるのは嬉しいけれど、こんな法外な収入、なんか間違ってると思いました。ごく通常の給与生活者でしたから。だからこの印税は何かに使おうと心に決めました。そんなとき思い出したのが、子ども時代に母と過ごした時間です。

母はシングルマザーでした。贅沢はできない時代もありましたが、本が好きで、経済的に大変ななか、毎月自分の本を1冊と私の本を買い、「絵本の時間」と言って読み聞かせしてくれました。

働きづめの母と接する時間は限られていたけれど、布団の中での「絵本の時間」がどれほど嬉しかったか。好きな本を読みながら母と時間を共有できるだけで満足でした。

子どもの本の専門店をつくりたい。そんな思いで会社をやめ、31歳でクレヨンハウスを始めることに。そのときもいろいろな人が忠告をしてくれました。いままで会社があなたを守ってくれたけど、それを失うと大変だよ。フリーになるならマンションでも買っておいたほうがいい、などなど。

でも私の気持ちは揺るがなかった。どうでもいいものはどうでもいい。どうしてもほしいものが世の中にないなら、自分でつくるしかないと。