人間にとっては群れで暮らす方が異常
親からの独立、離婚、配偶者との死別などで、人間は再び一人暮らしに戻ることも多い。
共に食事をする相手もなく、病気や災害の時、相談をする相手もいなくなる。しかし本来、人間は一人で暮らすのが原型なのであろう。
猿や羊は必ず群れを作るが、人間にとっては群れで暮らす体制の方が異常だ。
幸いにも人間には言語があるので、一人でいても他者の生き方を参考にできる。話をしたり、本を読んだりすることで、知人や書物から、体験や知恵を学ぶことができる。
そのような形で限りなく一人で生きる個に還ることが可能なのである。
妻であり母であった女性が、中年や老年に再び一人暮らしを始めるのは容易なことではない。
心の有りようが一人で生きる姿勢になっていないからだ。
しかし、もし女性が、男性を基準とする人類の中の「特別な種」ではなく、あくまで人類の一種であるなら、一人で生きられる能力が、存在の基本であることは間違いない。
※本稿は、『新装・改訂 一人暮らし 自分の時間を楽しむ。』(興陽館)の一部を再編集したものです。
『新装・改訂 一人暮らし 自分の時間を楽しむ。』(著:曽野綾子/興陽館)
夫、三浦朱門が亡くなってからはじまった一人暮らし。
誰もが最後は一人に戻り、一人を過ごす。
曽野綾子の「一人暮らし」新装・改訂版。