一人になる方も、それなりに辛い

子供が初めて友人の家に「お泊まりに行った」日のことさえ記憶している親は多い。もちろん親は、子供がその小さな冒険を楽しみ、順調にその家庭のしきたりに馴染んで一日を過ごして帰って来ることを望んでいる。

しかし他人の生活に溶け込むということは、とりもなおさず親に対する一種の裏切りだ。親にとって理想の子供とは、親の心情を理解して、いつまでも一緒に暮らすものなのだ。

『新装・改訂 一人暮らし 自分の時間を楽しむ。』(著:曽野綾子/興陽館)

一人になる方も、それなりに辛い。

家族の人数が減るということよりも、完全に一人で暮らさねばならなくなるということは、大きな試練である。

その試練なるものが、その人の悪い行為の結果や罰でなくても、そういう状況になることもまた人生の複雑さだ。

子供の独立を願えば、親は一人になる他はない。

どんなに仲のいい夫婦でも、一生二人でいられるわけはない。どちらかが先に死に、一人が残る。

結婚してから長い間、一人暮らしの現実を忘れていた女性が、再び一人で生きるようになるのだ。