66歳の牧野富太郎。踊ってみせる松のかげ(提供:高知県立牧野植物園)

植物を愛する心があるなら、戦争は起こさない

人間同士に慈悲慈愛の心ができれば世の中は無事太平である。国平らかに天下治まるのである。大にしては戦争小にしては喧嘩、それは人間同士に慈愛心すなわち、思いやりがないから起こる。思いやりの心を養うに、植物をその道具の一つに使うは最も当を得たものであると信ずる。

今日のように人心の危険におもむきつつある時世に、この人間同士の思いやりの心が欲しい。それは確かに危険におもむく人心を繋ぎとめるに助けの一つになると思う。

草木に趣味を持つと持たぬという問題は、ただちょっとした問題ではない。されば世をなげき国を憂うる為政者も考えてよい問題の一つである。

また教育者は学校で博物の教授を今日のようになおざりに付してはならぬ。教育者はもっと徹底して考えを博物の学科について持っていなければならぬと思う。やりようによっては、博物の科は倫理の科に次ぐたいせつなものとすることができる。