かつての親子に戻った日
義母の実家は、広い敷地に昔のままの姿で建っていた。到着すると、義母は門柱の前でしばらく佇んでいたが、急に顔つきが変わり、「すぐに墓参りしよう」と言い出した。
広い畑の真ん中あたりを指差しながら、「あの大きな桜の木のところにお墓がある」と言って、すたすたと歩き出す。そして、手ぬぐいを取り出してさっさと墓石を拭いはじめ、脇に咲いていた花を手折って、お墓に供える。私たちに向き直ると、「さあさあ、あなたたちもそっちの墓を掃除しなくてはね」と促した。
夫の様子を見ると、指図通りに体を動かしながら心なしか涙ぐんでいる。口には出さないが、表情で「いま、母さんには昔の記憶が戻ってるようだ」と伝えてきた。かつて、夫から義父母との同居を相談されたとき、私は躊躇なく同意したが、それをしきりに感謝してくれた夫だ。私は「確かに」とうなずいて返した。
親が親に戻っている。なら子も子に戻らねばと思い、言われた通り作業に精を出した。義母の眼差しが優しい。それはまさしく元気だった頃の義母その人で、帰郷で記憶を取り戻したようだった。さすがご先祖、さすが故郷。「ありがとう」の気持ちと大きな感謝がこみ上げてきた。