貧困家庭に生まれ、いじめや不登校を経験しながらも奨学金で高校、大学に進学、上京して書くという仕事についたヒオカさん。現在もアルバイトを続けながら、「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしている。ヒオカさんの父は定職に就くことも、人と関係を築くこともできなかったそうで、苦しんでいる姿を見るたび、胸が痛かったという。第38回は「生産性のない雑談に救われていた」です。
出社が必須の会社
社会人になって一番長く勤めた会社を辞めた。
働き始めたのはコロナ禍が始まり、社会が大混乱していた時期だった。就活の面接は軒並みオンラインになり、採用後の研修もリモートになる、というところが多かった。しかし私が当時住んでいたシェアハウスでは、奇声をあげたり暴れる住人がいた。
さらに、驚くほど壁が薄く、となりの住人の声は丸聞こえ。そんな環境でリモートワークなどできるはずもなく、リモートワーク推奨!という世間の流れに逆行して、出社が必須の会社をあえて選んだ。
今となってはこの選択は正しかったと思う。
「フルリモート対応」は優良企業の条件だったりする。実際出勤が嫌だから家で働きたい、という人の声はよく聞く。
しかし、フルリモートがプラスに働くのは、ある程度勤続年数があり、人間関係が出来ていたり仕事内容を把握し慣れている人だろう。新人がいきなりフルリモートだと、仕事内容を覚えるのが大変なのはもちろん、人間関係を築くことにも支障が出る。
毎日出勤するという当たり前を失ってみて、初めて気づいたのは、働くうえで人との対面でのやりとりにいかに力をもらっていたのか、ということだ。もちろんそれは煩わしさやストレスの原因ともなりうるが、一方で雑談の見えないパワーは凄まじいものがある。