お万との間に産まれた結城秀康。なぜ彼が将軍を継げなかったのか、本郷先生の見解とはーー(福井市。写真提供:Photo AC)

松本潤さん演じる徳川家康がいかに戦国の世を生き抜き、天下統一を成し遂げたのかを古沢良太さんの脚本で巧みに描くNHK大河ドラマ『どうする家康』(総合、日曜午後8時ほか)。第19回では、武田信玄(阿部寛さん)がこの世を去ったことを契機に、信長(岡田准一さん)は武田に寝返った将軍・足利義昭(古田新太さん)を京から追放。一方、信玄との激戦から立ち直れないままの家康は、侍女のお万(松井玲奈さん)に介抱され――といった話が展開しました。

一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。第38回は「兄なのに尊重されない?」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!

儒教では長兄が偉いはずなのに

瀧澤馬琴が描いた江戸時代後期の大ベストセラー、『南総里見八犬伝』。

主人公である八人の犬士たちは、物語のなかで「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の玉を持つのですが、これはご存じの通り、儒教の徳目になります。

この中で最後の二つ「孝悌」は、越前の由利公正とともに五箇条のご誓文を起草した福岡孝悌(土佐藩士)の名前にもなっています。

親に仕えることを意味する「孝」は儒教本来のありようでは最高の徳(「忠と孝二つながら全し」「君に忠、親に孝」は、日本独自の概念)。これに対して「悌」は「弟らしくすること」を意味して、お兄さんを敬う徳です。

父兄会、なんて言葉もありまして、儒教では兄、とくに長兄はお父さんに次いで偉かったとされます。