いまも生き続ける「反戦のシンボル」

ピカソのことはよく知らなくても、彼の代表作とされる『ゲルニカ』はどこかで目にしたことがあるのではないでしょうか。現在も「反戦のシンボル」として生き続けている大きな絵です。

ニューヨークの国連本部には複製タペストリーが飾られていて、2022年2月、EUの政府メンバーは、このタペストリーの前で写真撮影をし、ウクライナ戦争終結への支持を表明しました。

モノクロなのに、血の色や空の青さが鮮やかに見える絵です。無音なのに人々の悲鳴や慟哭が聞こえてくるような絵です。

「わからない絵」なのに、心の底から「ああ、戦争だけは絶対にだめだ」と思わされます。ものすごいパワーがみなぎっています。

常日頃から、絵に説明はいらない、理解もいらない、「好きか嫌いかのどちらかだ」と言っているピカソはこの絵についてもほとんど語っていません。

観る人にゆだねているのです。

「絵はそれを観る人の心の状態にしたがって変化し続ける。絵は、わたしたちが日々の生活によって変化するように、生き物のようにその生涯を生きる。それを観る人の目を通してのみ生きるのだ」

ピカソが85年前に、全身全霊で「反戦」の叫びを塗りこめた一枚の絵は、それを観る人がいる限り、いつまでも「反戦」の声をあげて強く生き続けるのです。

 

※本稿は、『ピカソの言葉――勝つためでなく、負けないために闘う』(大和書房)の一部を再編集したものです。

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ADHDと診断され、サラリーマンを辞めて切り絵の道に。逆境を乗り越え、『徹子の部屋』に出て親が喜んでくれた

ピカソの言葉――勝つためでなく、負けないために闘う』(著:山口路子/大和書房)

破壊と創造の画家ピカソの言葉とその軌跡 20世紀最大の画家ピカソ。
若くして成功し、91歳で亡くなる直前まで「呼吸をするように」描き続けた。
その軌跡を言葉と共にたどる